元動画:Essentials: Understanding & Healing the Mind | Dr. Karl Deisseroth


はじめに

本記事では、Huberman Lab Podcastにて神経科学者Andrew Huberman博士と精神科医Karl Deisseroth博士の間で行われた対談の内容をもとに、神経学と精神医学の根本的な違い、精神疾患の診断と治療における課題、そして未来の治療法について要点をまとめています。


神経学と精神医学の違い

Karl Deisseroth博士は、 神経学(Neurology) が「目に見える症状や画像診断に基づく」分野である一方、 精神医学(Psychiatry) は「言葉に基づいて目に見えない問題を扱う」分野であると述べました。血液検査やMRIでは捉えきれない症状に対して、精神科医は患者の言葉を唯一の手がかりとして向き合う必要があります。

最も複雑で美しいオブジェクト(脳)を前にして、私たちは“言葉”しか持っていない


言葉の限界と診断の難しさ

言葉を用いた診断には限界があり、特に発話量の少ない患者(うつ病、統合失調症、自閉症など)に対する診断は困難です。また「うつ」と一口に言っても、日常会話と医療用語では意味が異なるため、Deisseroth博士は患者の表現を具体的な行動や思考レベルにまで掘り下げる必要があると語ります。


精神疾患の定量化と今後の展望

精神医学における未来の鍵は、 定量的指標(Quantitative Metrics) の確立です。脳波(EEG)や脳回路の活動パターンをもとにした診断法や、特定の神経回路を対象とした治療法の開発が進められています。


治療抵抗性うつ病へのアプローチ

  • 電気けいれん療法(ECT):効果的だが精度に欠ける
  • 迷走神経刺激(VNS):脳深部に影響を及ぼすが副作用の懸念
  • オプトジェネティクス(光遺伝学):将来的に特定の神経細胞だけを精密に刺激できる可能性

ADHDと現代社会の集中力問題

ADHDは脳内の注意・行動制御の異常とされ、従来は 刺激薬(例:アデロール) で治療されてきましたが、最近では脳波診断による可視化や、ライフスタイルとの関連も注目されています。Huberman博士は「スマホの常習的チェック」がOCDやチック症状と類似した感覚を誘発している点に言及しました。


サイケデリックスの可能性とリスク

LSDやシロシビンなどのサイケデリック薬は、現実の捉え方を一時的に変容させることで、うつ病などに効果を示す可能性があります。一方で、幻覚・依存・長期的な認知障害のリスクも伴うため、慎重な研究と応用が求められます。

脳は“仮説生成マシン”。サイケデリックスは、その仮説の閾値を一時的に下げ、抑圧された認識の一部を表面化させる

また、MDMA(エクスタシー)は外向性と共感性を高め、PTSD(心的外傷後ストレス障害)治療への応用が進んでいます。薬理効果というより「新しいつながりの可能性を体験すること」による学習効果として解釈されています。


精神医学の未来と希望

Deisseroth博士は、自身の著書『Projections』を通して、科学的厳密性と一般読者への希望を同時に届けるという難題に挑戦しました。

進むべき道はまだ長いが、その軌道は美しい

精神医学は言葉の限界に挑みながらも、脳科学、AI、オプトジェネティクスといった最先端技術と結びつくことで、大きな進化を遂げようとしています。


おわりに

精神疾患を「見える化」し、適切に治療するための挑戦は続いています。この記事が、脳と心の関係に興味を持つ読者にとって、新たな視点や希望を提供できることを願います。


📘 参考書籍:『Projections: A Story of Human Emotions』Karl Deisseroth 著
🎧 出典:Huberman Lab Podcast「Karl Deisserothとの対談(Neurology vs Psychiatry)」


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